日本に「外国人」がいなくなる日を目指し 4月下旬にミニマガジン「BONDING」発行へ デジタルメディアもローンチ
原田 公樹
- 2023/03/28
日本の暮らし
2023年4月下旬にミニマガジン「BONDING」を発行します。5月上旬には、その拡張版となる、デジタルメディア「BONDING MEDIA」もローンチします。これからも増える日本に住む外国人と、彼らを迎え入れる日本人。ともに快適に暮らせるよう、支援を行う、株式会社ボンディングジャパンが提唱する「心を寄せ、つながり、楽しい人生を」という理念を伝えるプロジェクトです。スポーツライターの私、原田公樹が中心になってチームを編成し、編集、発行、運営を行います。20年間の英国生活のあと帰国し、閉塞感が漂うコロナ禍での出来事が、この2つのオウンドメディアを立ち上げるきっかけになりました――。
アレックスからのSOS
夜中の新幹線は、軽快に東京へ向かって走っていた。コロナ禍のピークが再び訪れた車内はガラガラで、その車体は軽そうだった。新幹線は楽だろうなぁ、と子供のような発想をして、ひとりで苦笑いをうかべたときだった。窓際に置いていたスマホが振動した。英国に住む、親友の息子アレックス(仮名)からのメッセージだった。“Hi Koki, I hope you are well…”というお決まりの言葉で始まった長文のメッセージは、思いもよらぬ内容だった。
父親は出生届を出していなかった
アレックスは日本人の父と、英国人の母に生まれた、いわゆるハーフで、英国でトップレベルの大学を卒業したあと、日本で働いていた。起業を考えているようで、現在の会社を辞めたあと、日本に引き続き住み続けるには、どうすればいいか。ビザ取得の要件を調べていたが、行き詰ったという。父か母のどちらかが日本人であれば、比較的簡単に日本のビザを取得できるが、アレックスの場合は、それに該当しなかったからだ。アレックスが生まれたとき、父親が日本の出生届を出していなかったことが理由だった。
代わりに日本語で電話
人生はさまざまだ。アレックスのことは、幼年期から知っているが、てっきりダブルパスポート(二重国籍)で、成人してから、英国籍を選択したのだろう、と思っていた。多くのハーフがそうであるように…。その翌日、親友である父親に電話をすると、事情を話してくれた。アレックスの場合、出生時からアレックスを英国人として育てることを決意。だから在英日本大使館へ出生届を提出しなかったのだという。
何か救済策はないか。行政書士や出入国管理局、父親の戸籍がある市役所など、関係機関に電話をかけた。アレックスはある程度、日本語はでき、質問はできるが、聞き取りは難しいからだ。とくにビザ関係の専門的な言葉となると、難易度は高い。ルールの詳細といくつかの対応策をアレックスにメッセージすると、とても喜んでくれた。
苦労した英語での電話がきっかけ
私も経験がある。私はスポーツライターとして、1999年から2019年まで、約20年にわたって、英国に住んでいた。最初の10年ぐらいは、英語で電話をかけるのは、苦痛で仕方なかった。こっちが言いたいことは英語で伝えられても、なかなか聞き取れない。“Sorry?”“Pardon?”と聞き直すことが出来るのも、2回か3回までだ。重要そうなところでは、しつこく聞き返すが、先方に電話口でため息をつかれ、ひるんだことは数知れない。
母国語ではない言語で、電話をかけ、手続きをしたり、有効な情報を聞き出したりすることが、いかに難しいか。通訳といかないまでも、こちらの意図をくんで、代わりに電話をかけてくれる人がいるだけで、どんなに助かるか。そのありがたみは、痛いほど分かる。
コロナ休業補償金の申請をサポート
日本語の書類記入もハードルが高い
日本では、役所や病院、郵便局へ提出する書類は、書式通りの日本語でなければならない。これも外国人にとっては、ハードルが高い。まず書類自体、ルビがふられた「やさしい日本語(やさ日)」ではないため、何を書き込めばいいか、それすら分からないからだ。せめて英語の対訳やサンプルがあれば助かるが、そのようなものは、あまり見たことがない。
ここは日本なのだから、書類は日本語で書くのが当たり前、という考え方もある。だが、もう少し日本語が母国語ではない人に、寄り添ってもいいのではないかと思う。
ライターにとっても難解な書類作成
申請書などをダウンロードしたが、これが日本人でも分かりにくい。日本のお役所に多い、「型に則った」書式のため、例外の事例や、その説明を書く欄がないのだ。専用の問い合わせの窓口へ電話をして書き方を聞くが、これまたオペレーターの説明が、分かりにくい。明らかに矛盾していても「それでいいんです」と言う。
長年、文章を書くことを生業として生きてきた私でさえ、よく分からないのだから、多くの外国人には、相当にハードルが高い。その後も何度か、問い合わせ電話をかけ、おおよそのコツを掴み、ナインさんに必要書類の集め方や、申請書の書き方をサポート。その後、同じように、ナインさんの同僚たちの申請書作成もサポートした。その数ヵ月後、それぞれから「支援金が振り込まれました」と連絡が来た。他人事だが、自分のことのような達成感があった。
日本食も食べず、旅行もしない技能実習生
その後人づてに、困っている外国人から、相談が来るようになった。可能な範囲で、電話やメッセージで相談に乗っている。給与や不動産の賃貸物件のこと、雇用主や監理団体が不当だという深刻な相談もあるが、やはり多いのはビザ関係だ。
相談に乗るうちに、見えてきたことがある。明確な目標を持たず、働いて給与を得ている外国人が多い、ということだ。日本へ来るために抱えた借金と、母国の家族を養っているため、生活を切り詰め、日本食も食べず、旅行もしない、という人がずいぶんいる。いつも同国人同士で、母国語を話し、だから日本人の友だちもいないし、日本語も上達しない。
将来より目の前の給与が大事な理由
アジア諸国からの技能実習生は、このような人たちが大多数を占める。最長5年間の技能実習生を終えると、帰国する人もいるが、多くは何とかして、引き続き日本で働きたい、と希望する。だから私は来日直後から、「5年後、10年後、どこで何をしているか。どんな職業に就いて、いくら稼ぎたいか。それをいまから考えて下さい」と繰り返す。
だが「いったい何を言っているの?」という顔をする人は多い。将来のことより、明日や来月の給与のほうが大事なのだ。残業も喜んでやって目いっぱい働き、最大限の給与を稼ぐことに注力する。
こうした近視眼的な人たちが多いことをいいことに、外国人材を単なる労働力としか、考えていない日本人の雇用主、監理団体は少なくない。全国各地でいま、この負の連鎖が起こっている。
キャリアアップを意識する
なぜ自らの将来を考えないのか。アジア諸国からの技能実習生たちの多くは、地方の貧しい家庭の出身者が多い。総じて真面目で、いい子が多いのだが、のんびりしていて、努力して成長したい、と考える子は少ない。おそらく母国での学生時代から、自分のキャリア形成を真剣に考え、何か実行に移したことのある人も少ないのだろう。
母国では、たとえ頑張っても、報われにくい社会構造も影響している。だから努力を重ね、それが実ったという成功体験を知らない人も多い。そもそも、どうすればキャリアアップにつながるのか、その方法はおろか、発想を持っている人が少ないのだ。日本をはじめとする先進国の若者とは、思考回路が違う。
多くの人が5年後、同じポジションで、同じ給与で働いているのは嫌だろう。そのためには、ひとつ上の日本語検定の合格、資格の取得、専門技術を磨くとか。自らが希望するキャリアアップの道筋を決めれば、おのずといま何をするべきか、見えてくる。キャリアアップしたい、転職をしたい、給与を上げたい、と思うなら、時間を捻出して、勉強することも大事だと伝えるようにしている。
日本人も意識改革を
いま政府は、「外国人との共生社会の実現」と銘打って、さまざまな政策を打ち出している。地方自治体もまた努力をして、以前と比べたら、制度など「ハード面」は少し整備されてきた。だが前述の通り、外国人が日本で働き、暮らすには、なかなか越えられないような高いハードルがある。依然として、日本は外国人に優しくない国だ。
ソフト面といえる、私たちの心構えも、まったく整っていない。コンビニエンスストアやレストラン、ホテル、工場で働く外国人を見て、勝手に日本にやって来た出稼ぎ労働者、という目で見ていないだろうか。受け入れる側として、日本を好きになってもらうような努力や、困ったことがあったら、手助けできるような心構えは必要ないのだろうか。
少子化が進み、高齢化は加速し、人口減は続く日本で、この社会を維持していくため、労働人口を補うには、外国人に頼らざるを得ない現実がある。もっと日本社会全体で意識を改め、外国人を歓迎して、応援するようなムードを作っていくことが、必要だと思う。
2つのオウンドメディアで伝えたいこと
4月末に発刊する「BONDING」は、日本で起こっている、外国人に関連した出来事や人物などを記事、コラム、写真などで伝える、A4サイズの全8ページのフリーミニマガジンです。大手メディアが報じない、独自の話題と視点で、伝えていくつもりです。今回は小規模事業者持続化補助金を使った単発のプロジェクトですが、もし可能であれば、将来は定期的に発行していきたいと考えています。
さらのこのミニマガジンに掲載できなかった話題は、5月上旬にローンチするデジタルメディア「BONDING MEDIA」に記事、コラム、写真に加え、動画も掲載していく予定です。
BONDINGとは、「絆」、「つながる」、「接着剤」という意味です。この2つのメディアを通じて、日本人も外国人もつながり、一緒に様々なことを話し合い、考えるきっかけになれば、と願っています。そうすることで「絆」が生まれ、もっと「つながり」が広がっていくのではないか、と考えています。