交渉する正義派のビザ専門家
「いかに合法的に正規の在留資格を取るか」が理念
原田 公樹
- 2023/05/24
レポート
国軍と民主派勢力が各地で衝突を繰り返し、内戦が続くミャンマー。国外へ脱出する人が急増し、コロナ終息後、日本へやって来るミャンマー人は多い。日本政府は、すでに日本に在留するミャンマー人に対し、在留資格を満了した場合でも、緊急避難措置として、就労可能な「特定活動」の在留資格を認めている。
増える日本在住のミャンマー人と在留資格を管理する出入国管理局(入管)の動き。ミャンマー人のビザの更新や変更を専門的に扱う「山田法務事務所」(高田馬場)の山田義宗・行政書士(62)に最新事情を聞いた。
見た目は怖そう。長身でスキンヘッド。でも物腰は柔らかい。脱サラして行政書士へ転身して12年目の山田先生は、主にミャンマー人のビザの切り替えや更新を専門的に扱っている。ビザで困ったときの「駆け込み寺」として、在日ミャンマー人のなかでは有名人だ。日本に住むミャンマー人の数が増え、それにより在留期間の更新や在留資格の変更許可などの申請数は増えているというが、新しい動きもあるという。
「最近、帰化申請が急激に増えています。以前は1年に1、2件でしたが、最近は、ひと月に2、3件はあります。ミャンマー人が母国に絶望して、日本国籍を取得する人たちが増えているんです。誰にとっても母国が一番じゃないですか。悲しい現実です」
これまでプライベートを含め、ミャンマーへ6回も行ったという山田先生は、この現実に胸を痛める。不動産会社の会社員だった49歳のとき、行政書士になろうと思ったきっかけも、ニュースを見て、胸を痛めたからだ。
「当時、中国人からの技能実習生が多かったんですが、帰国するとき、その8割が日本を嫌いになる、というニュースを見たんです。何か外国人のためにできることはないか、と考えました」
2年間、勉強をして、行政書士の資格を取り、独立したという。開業当時、とくにミャンマー人専門というわけではなかったが、ある居酒屋が転機だったという。
「その居酒屋さんで働く10人ほどのミャンマー人従業員は、全員が元技能実習生で、難民申請をしていたんです。『正規の在留資格が取れませんか』と相談を受けて。よくランチ営業が終わる午後2時ごろ行って、話を聞いていました。駆け出しだった私は必死でしたね。一人ひとりから事情を聞き、そのたびに入管へ相談に行き、お叱りを受けながら、結局、全員のビザを取得したんです」
それがきっかけで、在日ミャンマー人コミュニティの間で「入管と交渉してくれる行政書士」として、一気にその名は広まった。次第にネパール人や中国人などの間でも知られる存在になったという。
技能実習生制度の廃止は当然
いま外国人を取り巻く日本国内の環境は、少しずつ好転している。山田先生自身の転機にもなった技能実習制度。多くの問題を抱えながらも30年続いてきたが、ようやく廃止に向けて動き始めた。
「当然だと思います。そもそも技術の移転という考え方には無理があるんです。もっとひどかった研修制度から技能実習制度に変わったけど、依然として労働条件や生活環境はよくない。狭い部屋に何人も住まわされ、早出残業を強いられても、残業代は出ないケースがある。監理団体なしで、直接雇用ができる、分かりやすい制度に改めるべきです」
交渉する行政書士として名をはせて早12年。ビザのエキスパートになった山田先生の理念は「合法的に日本に住める在留資格を取ろう」だという。
「合法的に正規のビザを取得して在留を希望する、または日本への渡航を希望する人への努力は惜しみません。知って欲しいのは、日本にはさまざまな在留資格があり、入管はフェアに、個別の事情を加味して判断する、ということです」
複雑で、しかも情勢により頻繁に変更される在留資格の制度。たとえ行政書士ら専門家であっても、入管からこまめに情報収集をしなければ、的確な判断も助言も難しい。早めの専門家への相談が、自らの身を救うことになる。