メス牛の心が読める⁉  日本で働くミャンマー出身の2人酪農家たちのいまと未来

原田 公樹

レポート

 栃木県那須烏山市の牧場には、ミャンマーからやって来た、2人の酪農の専門家がいる。ソウラトゥエ(ソラ)さん(写真左)とソウヤンナインウィン(ナイ)さん。ともにミャンマーの大学で動物学部を卒業。ソラさんは2019年に来日し、ナイさんは昨年7月にやって来た。
 異国での仕事や言葉の壁、政情不安のミャンマーへ残した家族のことなど、それぞれの思いを語った。

 この中山牧場で働いて4年になるソラさんは、遠くからでも、100頭以上いる乳牛すべてを一瞬で見分けられるという。「毎日、一緒にいるから分かるだけ。大したことじゃない」とソラさんは言うが、中山光雄社長は、その能力に驚く。
 「私は何十年もこの仕事をやってるけど、覚えられない。ソラさんは見分けるだけじゃなく、それぞれの性格や健康状態、精神状態まで把握している。ソラさんがいないと、うちの牧場はやっていけない」

 安定的に生乳を出荷するには、いかに牛を健康的に保ち、病気にかからないよう予防するかが大事だという。さらに効率よく搾乳できるよう、計画的に牛を妊娠させ、出産させることもカギを握る。ソラさんは、「そろそろ発情しそうだなとか、表情や動きを見れば、何となく分かる」というが、これも簡単なことではないらしい。
 昨年来日した後輩のナイさんは「ソラさんメス牛の心が読めるんだ(笑)。酪農の専門家として、早くソラさんのレベルに達したい」と意気込む。

 仕事のことを楽しそうに話す2人だが、酪農という仕事は決して楽ではない。早朝から働き、長い休憩を挟んで、午後から夕方まで続く。出産になると、夜中でも、その対応に追われる。
 さらに業界全体では、この1年、飼料と燃料代の高騰により経営は厳しい。近隣では廃業する牧場も少なくない。
 「いまは辛抱の時間だと思う。何事にも、そういう時期がある。仕事自体は大変だけど、やりがいはあるから。牛たちは可愛いし、質の高い生乳が採れていると聞けばうれしい」とソラさん。ミャンマーに残してきた奥さんを日本へ呼び、一緒に暮らすのが夢だという。

「いまのミャンマーの状態だと、いつになるか分からない。辛抱の時間だと思う。近い将来、実現させたい」

 ナイさんは、もう少し仕事に慣れたら、日本中を旅行して、食べ歩きをしたいという。
 「せっかく日本に住んで、働いているのだから、知らない町へ行き、いろんな人と会って話をして、いろなものを食べたい。日本の食文化は、ミャンマーとはまったく違う。本当に美味しい」

 最近は近くのスーパーで、食べたことのないものを買って食べるのが、楽しみになっているという。

 目下の悩みは、2人とも日本語だ。「もっと話せるようにならなきゃいけないけど、勉強はなかなか続けられない」とナイさんは頭をかく。ソラさんは「妻を日本に呼ぶまでに、もっと日本語を話せるようになって、日本の文化や歴史も知っておかなきゃ」と自らにハッパをかけた。

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